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お料理
食材について

孟宗竹 (もうそうちく)

当地安来は筍の本場で、清水町の隣の島田地区は手入れの行き届いた竹林が点々と広がっており、シーズンには生筍が関西方面に出荷されております。自分も筍の出始めは島田の集荷場に買いに行きますが、出盛りになると二本の鍬を担いで筍を掘りにいきます。
筍を掘るのもちょっとコツがあり、穂先の向いている方を筍鍬で掘っていくと筍の地下茎のようなものがありますからこれを突いて切ってやります。これを切らない限りは、いくら掘っても筍はつながったままです。簡単そうだけど、やはり体力は要ります。
また清水山は日本の竹発祥の地と伝えられ、竹霊碑なるものが建っています。土壌も粘土質の赤土で筍に適しているので しょう。そして掘ったものを丸ごとすぐに茹でるわけですから、少々地面から穂先が出ていても柔らかくてあくが少なく美味しいのです。またこの時期は裏庭の木の芽もちょうど出始めますので、筍と独活の木の芽和えなどはこの時期、旬の精進料理です。
また皮の下の姫皮も美味しく、細長く切って吸い物の椀だねなど に使います。

淡竹 (はちく) ・真竹 (まだけ)

5 月も半ばになると孟宗竹の筍も終わりです。しばらくすると、淡竹 (ハチク)、続いて真竹 (マダケ) が出てきます。自分で採りに行く事もありますが、少しでも早く欲しいので八百屋さんに頼んでおきます。
普通筍と言っているのは孟宗竹の新芽で、地中にある ものを掘って使いますが、淡竹、真竹の場合は地上に出てきたものを切るので採るのは楽です。ちなみに物干し竿に使えるのが真竹です。
淡竹も真竹も割れるのがいやなので節を金串で抜いてから、皮をつけたまま 1 時間くらい茹でて浸け冷ましにします。少し醤油をきかせて炊きますが、田舎風で上品ではありませんがパンチのある味です。

糸瓜 (いとうり)

8 月に入ると糸瓜が大きくなり、献立に使えるようになります。うらなりの頃は実がほぐれず歯ざわりも悪いですが、よく熟れて硬くなると上手に茹でれば、ぼろぼろとほぐれ、しゃりしゃりと歯ざわりも良くおいしいものです。
糸瓜とか錦糸瓜とかそうめんかぼちゃとか言いますが、わたを取り良く洗い、上質な純米酢を用いて爽やかな酢の物に仕立てます。

当館でのお客様のお言葉に『ご飯がおいしかった』というのがよくあります。当たり前のご飯を出しているだけですが、うちには年間営業で使えるだけの米がとれる田んぼがあります。清水は山間部で寒暖の差が大きく、粘土質の為、収穫量は少ないですがおいしい米がとれます。品種はキヌムスメで、もみのまま蔵で保存する為、乾燥しすぎる事が無く、新米のおいしさを長く保つ事ができます。

茗荷 (みょうが)

9 月に入ると秋茗荷の色のいいのが採れます。茗荷は木の芽が終った頃から茗荷竹、夏茗荷とよく使うのですが、この時期は特に色も良く量も多く出ます。特に自家製の柴漬けには欠かせない食材です。
茗荷という名前については次のような逸話があります。『釈迦の弟子の周梨槃特 (スリバンドク) は熱心に修行をする人の好い人物でしたが、物忘れがひどく、自分の名前すらすぐに忘れてしまったそうです。そこで釈迦が首から名札を下げさせました。
彼の死後、彼の墓から見慣れぬ草が生えてきました。生前自分の名を荷物のように下げていたことにちなんで、村人がこの草を「茗荷」と名づけたそうです。』 この話から、茗荷を食べると物忘れがひどくなるという俗説が生まれました。

四方竹 (しほうちく)

当地では寒竹 (かんちく) とも呼ばれ、参道脇等に密生しています。普段はその葉を精進鰻の敷き葉として重宝していますが、採りに入ると節に刺があるので、服に引っ掛けたりします。
この四方竹は名のとおり断面が四角いのが特徴で、四角竹とも呼ばれるそうです。ちなみに中の穴は丸いです。
秋になり新芽が出ると適当な所で折って、皮付きのまま直ぐに茹でます。浸け冷ましにして皮を剥き適当に切って炊きますが、少し苦味というかアクがあるので、少しさらして抜いてから、たっぷりの出汁を吸わせて炊きます。市場には出ませんし、量があまりありませんが、筍のなかでもこの四方竹が一番野性味があるというか、そのものが持つ味があると思います。

田芹 (たぜり)

自家菜園横の小川に群生する田芹は当館のお料理に欠かせない食材です。春の七草にも『せり、なずな、ごぎょう、はこべら、ほとけのざ、すずな、すずしろ、これぞ春の七草』と一番にあげられています。丈も短く、雑草と一緒に生えたりして掃除が大変ですが、天然物には栽培物では代えがたい野趣があります。

ふきのとう

11 月の終わりごろから、目を皿の様にして探す山菜の女王様です。原っぱ、土手、畑の隅っこなど各ポイントを抑えながら、4 月の終わりまでお世話になります。
天ぷら、ふきのとう味噌などにしますが、うちの場合どちらかというとふきのとうの味噌煮という感じで、かなりふきのとうが入ります。どこまで苦味を抜くかが難しい勘所です。

ぜんまい

春先の桜が咲く時期になると、裏山にぜんまいが新芽を出します。順々に新芽が出るので、ぽきっと手で折って採り、数日するとまた新芽が出て、また採るというようなことを数回繰り返します。新芽の先がくるくると丸い銭のように巻いているから《銭巻き》と呼ばれたのが語源だそうです。先に綿毛を被っているので、手早く掃除して一刻を争うようにして塩漬けにします。一日でも経とうものなら、戻した時に硬くてとても営業に使えるような物にはなりません。奥郡の農家の方からも塩漬けしたものを買いますが、戻してからでも掃除はできますので、とにかく早く塩漬けしてくれとお願いしているほどです。

たらの芽

たらの木はとげがたくさんあり、その新芽は主に枝の先端についているのでたいてい手が届きません。高枝切りバサミを使うこともありますが芽が痛みやすいので、鍬や鎌で枝を折れない程度にたぐりよせて、先端の芽をぽきっと折ります。よく山菜の王様と言われますが、形・味共にその貫禄充分で、特に太い幹に出るたらの芽の方がぼってりと柔らかく見るからに美味しそうです。
芽の周りにはゼリー状の樹液がにじみ出て、よく栽培物が店頭に並びますが、天然物とは味の濃さが違います。残念なのは取れる期間が短い事で、一本の木からあまり採り過ぎると枯れてしまうことがあります。天ぷらにすることが多いですが、味が濃厚なので田舎味噌との相性が良く、ゆがいて胡麻味噌・胡桃味噌和えなどにもします。

自然薯 (じねんじょ)

栽培物の自然薯は市場に出回りますが、天然の自然薯は山菜採り専門の方に掘ってもらうしかありません。栽培物の自然薯は 2 年~ 3 年で出荷されるそうですが、天然物は 7 年~ 8 年ものにならないと使い物にならないそうです。では 7 年~ 8 年土中で成長するのかというと、そうではなくて種芋から夏ごろ新芽が出て冬に向けて次第に大きくなり、種芋は栄養分を取られ最後は腐ってしまいます。そして一回り大きな自然薯ができる。これを繰り返して次第に大きな自然薯ができてくるのだそうです。そして大きな自然薯は葉も大きく、つるも太くなり名人はこれを見つけるのです。自然薯というと 11 月下旬~ 12 月中旬頃がよく出回る旬ですが、意外と初夏の (葉ではなく芋の) 新芽の出る前のものも美味しく、これを過ぎるとだめです。清水山にも自然薯はありますが、やはり大山近辺のくろぼく (黒土) で育った自然薯は型も良く味も良いようです。

自然薯にも天然物と栽培物があり、栽培物は比較的入手が容易ですが、味と粘りはやはり天然物にかなわないと思います。猪の大好物で、なかなか掘らしてもらえないと言う話も聞きます。味付けはシンプルに出汁と淡口と天然塩だけで、とろろ汁にします。少し醤油をたらしてご飯にかけて食べるのが最高に美味いですね。
境内の宿・精進料理御食事処 紅葉館 KOUYOUKAN
〒692-0033 島根県安来市清水町528
0854-22-2530 受付時間 8:00~22:00